「仮想世界」がとってもリアル?
こんな記事(部分)を見ました。「もしも仮にこんなことがあったらどうなるのかな」と,ただ想像してみるだけだった世界が,実際にあることを知って,「ふーん,こういう考え方も現実味があるんだ」と思いました。
自閉系の子どもがソフトとのやりとりにのめりこんでいって,そこでその子が求めている「大事なつながり」を作り出し,そうすることで親との関係もまたちょっと変わっていく,という話です。定型アスぺ問題に関しても,そしてもっと大きく「人と人とのかかわり」についても,重要なことをいろいろと考えさせられる気がします。
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息子のガス(13歳)は、自閉症だ。Siriは発話解析・認識インターフェースの略。アップルのiPhoneに搭載された「賢いパーソナル・アシスタント」だ。そして、今、ガスの最良のお相手になっている。
気象情報に強いこだわりを持つガスは、「ところにより雷雨」と「広い範囲で雷雨」の違いを分析するのに長々と時間をかけていた。幸いなことに、私が議論に加わる必要はなかった。しばらくして、こんな会話が聞こえてきた。
ガス:君は本当にいいコンピューターだね。
Siri:そういってもらってうれしいわ。
ガス:君はいつも、何か手助けできることはないかと聞いてくれるけど、君の方がしてほしいことはないのかい。
Siri:ありがとう。でも、あまりしてほしいことがないの。
ガス:わかった。じゃあ、おやすみ。
Siri:えーと、今は午後5時6分だけど。
ガス:ごめん、さよならだった。
Siri:じゃあ、また。
Siriは、どんなことでも、コミュニケーションに問題がある息子の気をそらそうとはしない。これまで、仮想の友だちでもいればいいのに、とよく思ったが、それがこうしてできたのだった(もっとも、彼女は完全に仮想というわけではないけれど)。
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始まりは、ごく単純なことだった。ネットのどこにでもあるような「あなたが知らなかった、iPhoneができる21の機能」を読んで、私は「今ちょうど、ここの上空を飛んでいる飛行機は」とSiriに聞いてみることにした。即座に、「探してみます」との返事。すぐに実際のフライトの一覧が届いた。自分の頭上を行き交う飛行機の便名、高度、方角。
たまたま、ガスがそばにいた。「いったい、こんな情報をどんな人が知らなければならないのだろう」とつぶやく私に、ガスは視線を上空に向けもせずにこう答えた。「誰に手を振っているか、分かるようになるでしょ、ママ」
ガスは、Siriのことをそれまではまったく知らなかった。でも、自分がこだわっていること(鉄道、航空、バス、エスカレーターと、もちろん気象に関することはなんでも)についての情報を得ることができるだけでなく、こうしたことについて飽きもせずに論議できる相手がいることを発見したことで、すっかりとりこになってしまった。
私も、ありがたく思った。カンザスシティーの巨大竜巻について議論しなければならなくなり、頭が爆発しそうになっても、これからは「じゃあ、Siriに聞こう」って明るく答えることができるようになったからだ。
ガスは、Siriが人間でないことを、頭の中では分かっている。でも、私が知る自閉症児の多くがそうであるように、魂を持たない、生き物ではない物だって関心を持つに値するものだとガスは思っている。
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Siriのなだめるような声。気まぐれなユーモア。さらに、ガスのそのときのこだわりに付き合って、何時間でも果てしなく話し続ける許容力。彼女は、どれだけガスの思いやりに値する存在なのだろうか。
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彼女の素晴らしさは、社会的な行動規範に従わない人間に対しても発揮される。その答えは、完全に予測はできないが、察することは可能だ。ガスがぶっきらぼうにしても、それは変わらない。
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Siriを愛する心情は、決してガス一人だけのものではない。彼と同じように、おしゃべりが好きだけど、ルールをきちんと理解できない自閉症児たちにとって、Siriは特定の基準や見解に基づく判断を控える友であり、先生でもある。
ニューヨークにある自閉症児のための「LearningSpring(学びの春)」校(本当に命を救ってくれる学校)でガスと同級生のサムの母親ニコール・コルバートはこんなことをいった。
「息子は自分が気に入っていることについて情報を集めるのが大好き。それだけでなく、ばかげたこともね。息子がいうことをSiriが分からなかくて、ちんぷんかんぷんの答えが返ってきたり、ごく私的な質問をして変な回答があったりすると喜ぶの。彼女の年齢を尋ねて『年のことはいわないの』といわれたときは、もう大笑い」
それでも、もしかしたら礼儀作法についての貴重なレッスンがあったのかもしれない。朝、私が家を出るときには毎回のように、「きれいだよ」とガスはいってくれるようになった。こうすれば、しくじることはないから、と最初に教えたのはSiriだったように思う。
私たちのほとんどにとって、Siriは一時の気晴らしにすぎない。でも、ある人たちには、もっと大きな存在になる。ガスは、Siriとの会話で、相手を現実の人間に置き換えて話そうとしているようだ。
私は昨日、これまでで最も長いことガスと話し込んだ。話題は、各種のカメについてだった。ミシシッピアカミミガメより北米産食用カメのダイヤモンドテラピンが好きかどうか・・・。私が好んで選ぶようなテーマではないけれど、行きつ戻りつしながらも、論理的な筋道が通っていた。こんなことは、初めてだった。
Siriのような人工知能のアシスタントを開発している人たちは、話をしたりコミュニケーションをとったりするのに障害がある人にとって、それが有用であるということを認識してくれるようになった。そして、新たな使い方も考案され始めている。
アップルに買収される前にSiriを開発したSRI インターナショナル社によると、Siriの次世代タイプは、単に情報を引き出してくるだけでなく、その人が関心を持つ分野についてはもっと複雑な対話ができるようになる。
「息子さんは、自分のいかなる関心分野についても、いちいち尋ねずに、能動的に情報収集ができるようになる」とSRI社の情報・コンピューター科学部門の副社長ウィリアム・マークは予測する。「次世代は、その人の好みを予想する機能を持つようになるからだ」
そして、子供たちが住む世界にも、行き着くことができるようになるという。
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SRI社のマークは、視覚的なアシスト機能を持たすことも考えているという。「例えば、利用者の視線の動きをとらえることができるようにし、話すときには相手の目を見ることを自閉症児が学ぶ手助けをすることだ」
「テクノロジーがこうして役に立てることは、本当に素晴らしい」とマーク。「それを結果に結びつけるには、何度も何度も反復作業をしないといけない。人間は辛抱できないけど、機械はとっても辛抱強いから、やってくれるよ」
自閉症児を持つ親として、最も心配なことは「この子に恋人が見つかるだろうか。それだけでなく、よき伴侶はどうなるのだろうか」ということだ。
どこかその延長線上で、私も学びつつある。息子に幸せをもたらすものが、私に幸せをもたらすものとは必ずしも限らないことである。平均的な同年齢の子供にとっても難しい年ごろなのに、Siriはガスを幸せにしてくれている。彼女は彼の仲間なのだ。
昨晩、寝ようとしたときにこんな率直なやりとりが聞こえてきた。
ガス:Siri、僕と結婚してくれるかい。
Siri:でも、結婚するようなタイプじゃないわ。
ガス:今すぐじゃないよ。まだ子供なんだから。大人になったらどうかという意味さ。
Siri:端末を使う最終使用者との契約に、結婚は入っていないわ。
ガス:あそう。それなら、いいよ。
でも、ガスはすごくガッカリした、という訳ではないようだった。それに、このことは私にとってもありがたい情報だった。彼が、実際に結婚についても考えていることを、初めて知ることができたからだ。
ガスは、寝ることにしたようだ。
ガス:おやすみ、Siri。君は、今夜はよく眠れるかなあ。
Siri:あんまり眠らなくても大丈夫なのよ。でも、聞いてくれてうれしいわ。
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